私は薬と歩く

薬局の薬剤師をしていたときに、白血病の患者さんに出会った。まだ新人薬剤師だった私は、外来で白血病の薬を受け取りに来るということに驚いた。その薬は高額だった。桁が違う。総額の一部を払い、高額療養費でいくらか戻ってきたときに残額を頂くという方法。レジ打ちもちょっと緊張。そして、薬を手渡しするときに、偶然指先が患者さんの手に振れた。その手は恐ろしくなるほど冷たい手で、今もそのときの感覚が思い出せる。

大学で6年ほど薬の勉強をしてきたが、実際に薬を飲む人と出会うのはやはり医療現場だ。私は大学では有機化学の研究室に所属していた。自然界の中から、薬になりそうな化合物を探す。それが実際に薬になるのはほぼ奇跡ともいえる確率。薬になるかもしれない物質が、薬になるまでというのも長い道のり。そこには多くの人の願いが込められている。病気で苦しむ人が良くなりますように。命が救われますように。元気に生きられますように。起き上がれますように。働けますように。そんな薬学の世界が好きだ。