心の中の音楽を聴く

ここ最近、40代になってから私は泣かなくなった。30代までは本当によく泣いていた。大学受験に立て続けに失敗した頃、離婚を決めた頃、シングルマザーとして生き始めた頃、そして、父が急逝したとき。ほかにも悲しかったことはたくさんあったが、たぶんそれで一生分の涙を使ったんだと思っている。
さて、私はコーチングを仕事のひとつにしている。言葉の力は実感として持っているけれども、時に言葉以上の力を持つものの存在を目の当たりにする。それは、音楽。
映画「羊と鋼の森」に、ラの鍵盤をポーンと叩くシーンがある。それを聴いた瞬間に溢れ出した涙。自分でも信じらない体験だった。そこで泣くのはたぶん映画館でも私だけだったと思う。普通に考えると、感動を呼ぶシーンではないので。
ただ、私の場合は父が調律師だったので、そのラ音だけで、一気にいろいろな記憶が引っ張り出されたんだと思う。
音楽の持つ力にただ圧倒される。
人の心の中に流れている音楽が聴こえるという、オルゴール職人の小説を読んだ(「ありえないほどうるさいオルゴール店」幻冬舎文庫)。人の心の中の音楽が聴こえない私は、オルゴール店の職人にジェラシーに似た感情すら感じてしまう。
私は人の話を聴けているだろうか。聴き取れないまでも、その人の内なる音楽を聴こうとしているだろうか。さあ今夜のコーチングセッション、私はあなたの内なる音楽を聴こうと思う。